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ウェディングプランナーの不在

 
結婚式。私も本番に何度も涙を流したことがあります。これまで伝えられなかった感謝を伝える機会になったり、改めて相手・家族・友人との絆を深める機会になるなど、本当にかけがえのないイベントです。
 
一方で、参加者のリアルな声の中には「結婚式っていつも同じ」「自己満足に感じた」「テーブル内の会話は楽しかったけどそれ以外覚えていない」「おしゃれだったけど以上という感じ」などシビアなものも多くあります。当時20代の私は、この仕事の意義を問うほどの葛藤を感じていました。
 
2003年新卒で大手結婚式専門会社に入社し、ウェディングプランナーとして配属されました。ただ、その仕事はイメージとは違っていて。まず、営業成績が評価される営業職ですし、多数の件数を効率よく回転させるためにプランナー1人が多くの担当を持っていて、とてもではありませんが、装花・写真・司会・音響照明など全ての打ち合わせに同席することができません。新郎新婦は花の打合せはその担当者と、演出・照明の打合せはその担当者と、音楽は新郎新婦が自分で決め担当者に提出・・・と、全て別々の担当者と打ち合わせしていきます。それがどういう状況かというと、全ての選択・その経緯を把握している人間は、新郎新婦以外に居ないということです。例えばプランナーの中には、自分が担当した新婦がどの様なドレスを着るのか、どの様な会場装花を選んだのか、どの様なブーケを持つのか、どの様な曲を選んだのかなどを知らない人も少なくありません。
 
単純なことで、打ち合わせに同席していれば全体像を掴めるので、アドバイスをしたり必要な時に軌道修正したりすることができるのですが、何か知らないことがある状況では、的確な提案、ましてや全体を統括するディレクションはできません。そんなウェディングプランナーの仕事は、プランナーというよりも、新郎新婦の希望をお伺いしそのお伺いした希望を具現化する「お承り係」でした。
 
映画制作現場を例に想像していただくと分かりやすいと思うのですが、現場には結婚式と同じように主役(新郎新婦)が居て、衣装、ヘアメイク、音響、カメラマンなど、沢山のキャスト、プロフェッショナルがいます。そしてその全体を統括するのが監督(ディレクター)です。例えば舞台には演出家、スポーツチームには監督、企業にはCEO、部署には部長など、皆さんのご職場、学生時代の部活動や学校など想像していただいてもお分かりの通り、それぞれ呼称は違えど、どの様な組織にも必ずリーダー・ディレクターは居て、その人1人で大きくチームや成果が変わるほど重要な役割です。
 
ウェディングでは、結婚式を主催することが初めての新郎新婦が、一生懸命SNSや事例をリサーチし考え、衣装・装飾・音楽・演出などを選択しています。その状況は、映画で言うなら、映画出演は初めての主演俳優が、衣装や大道具、サントラ、そして脚本を考えているようなものです。ただ、結婚式も映画も、それが何か完成を妨げるほどの大きな問題を生むかといったらそうではなく、アイテムさえ揃えば完成はします。ただし、クオリティに明らかな違いができます。
 
結婚式の準備は、他者のインスタなどを見て、情報をかき集め、一生懸命想像を働かせ準備し、当日初めて全てが合わさるのですが、そんな当日の現場では、この会場にこの衣装?この衣装にこの装花?この装花にこの照明?この雰囲気にこの音楽?など、チグハグしていることが実は少なくありません。それは実はただビジュアル的にまとまりがないということではなく、その違和感によって伝えたいことを伝わりにくくしたり、居心地の悪さを生んでしまったりします。それが文頭のゲストのリアルな声を生みます。違和感が悪目立ちすると「お金持ちを見せつけられた」そんなステイタスの象徴に映ってしまうことすらあるのも結婚式です。
 
「映画・会社など組織・スポーツチームなどとは違ってディレクターが不在だろうが、それが結婚式」と言って仕舞えばそうなのですが、私は「せっかく大金をかけて、一生懸命に準備するのに、結局ゲストにそう思われてしまうなんて」ということが腑に落ちず、葛藤していました。
 
「結婚式を本質的に価値あるものにしたい。」
「ウェディングプランナーとしてプロの仕事がしたい」
 
その思いが強くなればなるほど、多忙を極めてはそれをどうしても実現できない環境・実態に、一度は心底嫌になってこの仕事を辞めました。
 
2年ほど違う職に就きましたが、もう一度「結婚式を本質的に価値あるものにしたい」という思いに向き合いたいと思いました。まず絶対条件は全ての打ち合わせに同席し、意見ができるくらい全体をしっかり把握すること。独立志向があったわけではないので、いくつかの会社に面接に行ったのですが、「担当するウェディングは月3件までにしたい」という条件を伝えると、どの会社からも断られてしまいました(当たり前ですね:苦笑)。断っていただいてようやく、会社の利益を考えられないのに、会社からお給料をいただこうとする自分が間違っていることに気付きました。
 
そうしてこの方法しかなかったのが「フリーランスでウェディングプランナーをすること」でした。2009年秋に活動を開始、予算が全くなかったので、2010年1月にWedding LABの屋号で自分でホームページを作りました。ところが「結婚決めたらゼクシィ」が当たり前の概念でしたから、100%に近いほとんどのカップルが、結婚式の開催を決めたら、雑誌やネットで会場探しを始めます。インターネットで「ウェディングプランナー」を検索してくださる方はおらず、なんと開始から1年半、問い合わせすらない状況でした。30代にしてアルバイトや派遣で生計を立てる苦しい時期でしたが「知られるのに時間がかかるだけ。絶対に必要な選択肢。」という自信を失うことはなく、“続けたこと”が自分の最も良かったところだと思います。
 
しばらくして日本の既成概念(結婚式開催を決めたら会場探し)にとらわれない国際結婚のカップルや、クリエイターやデザイナーなどのお仕事の方から依頼を頂くようになり。その事例を見たアンダーズ東京から2014年オープンの際にオファーを受け、ホテルとフリーランスが協業するという新しいスタイルを築くことになります。
 
現在もお承りする組数を限定し、全体をディレクションする時間を確保しています。よくフリーランスのフォトグラファーさん、ヘアメイクさんなどに、「少しでも件数を入れれば稼げるし、空いている週末もあるのに、ちゃんとストップ、断れるのが凄い。そのストッパーは何ですか?」と聞かれますが、「絶対にクオリティを守りたいから」という理由に尽きます。
 
今もきっと9割以上の方が結婚式場探しからスタートされると思いますし、一般的な結婚式の作り方は、新郎新婦が時間をかけて考え、希望を伝え、それを承るという方法です。それが結婚式の普通と言って、全く異論はありません。私たちは真逆で、プロフェッショナルが時間をかけて考え、トータルコーディネートする方法で結婚式をつくっています。
 
そうしてつくられる結婚式は、新郎新婦だけでなくゲストや、ホテルなど企業からも高い評価をいただいており、現在ではホテルやレストランのウェディングスタートアップ〜運営をお任せいただくまでになりました。 VOGUEウェディングサロンのマネージャーさんのウェディングをお任せいただいた際には、ゲストの半数がウェディングのプロという機会もありましたが、そんなウェディングを何千と見てきたプロの参加者からも「この結婚式、段違い」「エンカナマジック!」「こんな結婚式初めて」「週に1回参加したい」などのお声(投稿)を頂戴しています。

新 郎 新 婦

 
ここまでは私たちのウェディングの作り方・スタンスをお伝えしましたが、同時に大切なのが、結婚式の主催者である新郎新婦お二人にも、同じ方向を向いていただくことです。
 
結婚式準備は常に“選択”の岐路に立っていると言えます。
 
最も難しいのが、二人の希望を優先する【新郎新婦軸】か、またはゲストに喜んでいただくことを優先する【ゲスト軸】かの選択です。もちろん理想的には両立を目指していくのですが、結婚式ではどうしてもどちらかしか選択できない(どちらかを選択すれば、どちらかを諦めることになる)シチュエーションが多くあります。
 
ある時お打ち合わせで、お二人に装花や音楽のお好みをお伺いした際、新郎がこう仰いました。
 
「え?僕らの好みですか?僕らにも好みはあるけど、僕らの好みになってもなぁ(笑)結婚式で用意するそれらは僕らのためでなく、来てくれるみんなに喜んでもらうために用意する物なので、僕らに似合うものでみんなが喜ぶように用意してもらえたら、それが本望です!」
 
こちらはかなり極めていらっしゃる例ですが、これが【ゲスト軸】です。私たちはそんな【ゲスト軸】を核にしています。端的にお伝えすると、二人の希望とゲストの喜ぶことを天秤にかけなければいけない時は、ゲストの喜ぶこと、もとい「二人がゲストから喜んでいただけること」を優先しています。
 
なぜ【ゲスト軸】でプロデュースさせていただいているかと言うと、結婚式以上に『結婚式のその後』が重要と考えているからです。
 
結婚式は紛れもなくお二人の人生にとってインパクトのある BIG DAY ですが、あっという間に過去になる通過点でもあります。いつもと同じ24時間で過ぎ去り、明日が来ます。だからこそ、この『イベント』自体がゴールではいけないと思っています。このイベントがお二人のその後の人生にどのようなインパクトを与えるかではないでしょうか。もしこの結婚式が、前の章で書いたように、ゲストに「自己満足」と感じられるものであれば、翌日からそういうレッテルを貼られてしまうのですから。私は現在イギリスで暮らしていますが、イギリスでも女子たちが「あの子 This is my wedding! て言ったのよ」なんて話しているのを聞きました。花嫁は「私は主役よ!」となんでも我儘を聞いてもらえると思ってしまっていたようです。結婚式を機に友人関係が壊れてしまったという例も、実は少なくないんですよ。
 
結婚式というイベントが、新郎新婦同士は勿論、参加してくださる大切な方々との絆をより固い絆で結ぶ機会になって欲しいと思っています。結婚式を介して二人のことをより深く知り、好きになって欲しいです。ゲストに「この結婚式に参加して良かった」「なんだか幸せな時間だった」と思っていただきたいです。ゲストにとっても良い思い出となって欲しいです。結婚式という機会が、翌日からの未来へ後押しするようなものであって欲しいと、心から思っています。それが私たちが【ゲスト軸】を核としている理由です。
 
一方で先にもお伝えした、新郎新婦の希望を伺いその希望を具現化して作っていくという一般的な結婚式の作り方は【新郎新婦軸】で成り立っています。これは新郎新婦が、私たち“会場のお客様”という構図の上にあります。私は新卒で大手結婚式場に入社した時から、そこに違和感を感じていました。
 
「ノーを言わない」「希望を全て叶える」聞こえは良いのですが、それは同時にその結果がチグハグだろうが、ゲストから不評だろうが、それを希望した新郎新婦の責任であって、お客様である新郎新婦お二人の希望が叶い、二人が満足ならそれで良いということが土台にあります。確かに私たちは二人の希望に「素敵ですね〜!」「承知しましたー!」と言って具現化さえすれば、二人には当日まで気分よく過ごしていただけますし、私たちも “なんでも叶えてくれる良い人” で居られ、感謝されます。当日ゲストが「自己満足」と言ってようが、陰で囁かれるそれが二人の耳に入ることはほとんどないので、二人がハッピーならばオーライです。
 
でも本当に二人だけが満足すればOK ですか?私の正義感はお節介でしょうか。全カップルがそう思っているんでしょうか?そもそも新郎新婦はお客様なんでしょうか?お客様ではなく、主催者ではありませんか?その上結婚式を主催するのは初めてです。だからこそ例えば裁判をサポート・リードする弁護士や、治療方針を決めていく時の医師のように、専門知識と事例を活かしリードしてくれるプロフェッショナルのサポート、苦いことでもリアルを伝え考えてくれる存在が必要と思います。新郎新婦の何千倍という結婚式づくりの経験をしているウェディングプランナーが、本質的な役割でサポートしていくことができれば、もっと結婚式は変わると確信していましたし、それを必要とする新郎新婦の“選択肢”になりたいと思いました。
 
選択肢と書いたのは、私たちのプロデューススタイルが全ての方にとってベストということではないからです。何年も前になりますが、新郎新婦からご希望をいただいたことに対して「ゲストには喜ばれないので、こうした方が良い。」とアドバイスさせていただいたところ、「あなたはスタッフなんだから意見は言わず、黙って私たちの希望を叶えれば良いの。」と言われたことがあります。お二人が結婚式で最も大切にしたいことがご自身の希望を叶えることなのであれば、確かに私は厄介者です。私が黙って言われたことだけを叶え・具現化することは全く難しいことではありませんから、それがご希望でしたらそれを実行することもできます。
 
ただ一方で、そうしてしまうと結果に責任を持つことができません。事例をご覧いただいて「この会場のウェディングが素敵」「この人にお願いしよう」と思ってくださると思うのですが、ご覧いただいている事例は、私たちがトータルコーディネートしつくり上げてきたものなので、同じ結果を求められるならば、私たちはその方法を変えない必要があります。
 
私はお二人に対して、スタッフとして接客業はしません。お二人の結婚式を作るためのパートナー、サポーターとして携わらせていただきたいと思っています。ですから必要であればお二人にノーを言います。耳障りかもしれません。しかしながら極論、新郎新婦お二人が、結婚式に参加くださるこれからの未来・人生もお世話になる大切な人々に結婚式後嫌われてしまくらいなら、私が新郎新婦お二人に嫌われる方が、よっぽどマシとも思っています。その代わり、誰よりも二人が当日本気の拍手喝采の中に居てくださることを願っています。その景色をお二人に見せたい、その感動とそこから生まれる感謝を、味わってほしいと思っています。だからこそ、自分にとっては難しくしんどい道を選びます。
 
結婚式は選択の積み重ねです。そしてその選択で大きく結果が変わります。
 
是非「式場探し」をする前に「二人が結婚式で大切にしたいことは何か。どんな結婚式にしたいか」を話し合ってみられてください。そして私たちがお役に立てそうでしたら、お役立ていただければ幸いです。
 

遠藤 佳奈子